日暮であった。石田三成は足を止める。
島左近もそれから少し行き過ぎたところで止まった。そうすることでほかの家臣たちは遠巻きとなる。
西日は彼らだけでなく、聚楽第の跡までも赤く染めていた。
「寂しいな」
三成はぽつりと言い置いた。
見上げる。
そこにはもうなにもなかった。壮麗な館も賑わった人々も、もうなかった。
あるものは移築され、あるものは取り壊され、そうして人は去っていった。
「かつてを知っていればいるほどに、今の姿はひどく寂しい」
頭の中がきゅっと締め付けられたようだった。よく考えが働かず、纏まりもしない。
だがそういうことも三成には数瞬でよかった。数瞬で事が足りた。
左近を見遣る。
「やはりおれは伏見に戻る」
暫くぶりに屋敷に帰るよう促しに来たはずの左近は、けれど特段何かを言う様子はなかった。
ただ三成の「明日発布する秀吉様のお下知が、少し」という言葉をみなまでは言わせなかった。
「殿、お供仕りましょう」とだけ言った左近は、あとは黙って三成に付き従う。
沈み行く陽を追いかけるように三成は歩き始めた。
だがきっと夜に追いつかれる。いずれ陽のない夜がやって来る。
そんな誰もが知る当然の世の理など、石田三成には分かりきったことだった。
もうすぐ夜を迎える